2000年前の風景に出会える、そんな場所があったら行ってみたいと思いませんか?
この登呂博物館では一歩足を踏み入れた先で2000年前の弥生時代へタイムスリップすることができます。
資料など文字での説明だけでなく、多くの実体験を通して当時の日本人の姿を見ることができる、そんな現代では貴重となった空間の楽しみ方をご紹介します。
静岡市立登呂博物館とは
JR静岡駅からバスで約10分。アクセス良好な街中で出会えるのは、弥生時代の風景です。縄文時代と古墳時代の間の時代として、稲作が普及し農耕文化が成立。
日本人の主食となる米の文化はこの弥生時代から始まりました。そんな弥生時代の遺跡として発掘された登呂遺跡。登呂博物館は弥生時代と登呂遺跡に特化した全国でも珍しい博物館です。国の歴史や技術の発展を時系列を追って辿るのではなく、一つの時代・文化を追求することでその時代に生きた人々の思いや当時の文化をより深く知ることができます。
「活字での情報だけでなく、実際に体験して学んでほしい」そんな思いから、館内では当時の暮らしを再現した体験コーナーを多数用意。写真や映像という2次元の体験だけではなく、自分の体で身をもって当時を知ることができる、国内でも有数の貴重な「体験型博物館」です。
【登呂博物館 特別インタビュー】
歴史の授業で必ず習う「弥生時代」。稲作文化の始まりの時代として日本人にはなじみ深い時代でもあります。農耕文化の発展と並行して弥生土器など、当時の暮らしに欠かせない数多くの道具も作られました。
その出土品の多くからは、「ヒトとは、モノを道具として扱う知恵を持つ生き物」と定義できる、当時の暮らしの様子を知ることができます。
そんな弥生時代の遺跡として発掘された登呂遺跡。今回はその遺跡そのものの魅力と、遺跡展示を行う博物館の見どころについて学芸員の方にお伺いしました!
稲作文化の始まり、弥生時代にタイムスリップ。
まず、登呂博物館の概要についてお聞きできますか。
登呂博物館は静岡市立の博物館として開館し、主に2000年ほど前の弥生時代後期の登呂遺跡の発掘で出土した品を展示しています。登呂遺跡は特別史跡に指定されており、発掘調査では弥生時代の水田跡、ムラ、住居・倉庫などの建物、土器や木製品などが見つかっています。出土品は重要文化財にも指定されており、当館ではこれらの物を展示しています。
では、この博物館の特徴的なところはどういったところでしょうか。
一番の特徴としては、当時使用されていた物を実際に見ることができるという点です。博物館の2階には常設展示室があり、そちらは有料のエリアになるのですが登呂遺跡について、その歴史や出土品などを見ていただくことができます。
登呂遺跡は弥生時代の遺跡ということですが、発掘の経緯などをお聞きできますか。
登呂遺跡は太平洋戦争真っただ中の昭和18年に見つかっています。そして戦後すぐに国を挙げての発掘調査がされ多くの出土品が発掘されました。それまでの日本では、現在私たちが教科書で習うような日本史ではなく天皇がこの国を作ってきた、天皇中心の歴史として伝えられてきた部分を、自分たちの手で自分たちの先祖たちはどうやって暮らしていたのかを研究して見直そうという動きが、発掘調査のきっかけでした。2階の展示室では、そういった発掘に至る経緯や発掘当時の資料なども展示しています。
戦時中に見つかったのですね!戦後すぐに調査が開始されたというのは、それだけ貴重で研究するに値する遺跡だったということがよく分かります。
そうですね。館内だけでなく、博物館の外では発掘で見つかった田んぼの跡やムラの様子を広大な敷地を以て再現しています。発掘資料に基づき当時の様子を再現しているので、田んぼの中に立って周囲を見渡すと、2000年前の風景を体感していただけます。それを体感した後に2階に上がって発掘資料や出土品を見てもらうとより理解が深まると思います。
なるほど。まずは自分で体験して、その後資料などを読み込むことでより分かりやすくなる、とても学びやすいシステムですね!
1階は無料のエリアなのですが、弥生体験展示室というスペースでは出土品などを基に復元した当時の道具などを展示しています。たとえば、復元した石器で稲刈りや火起こしを体験できるなど、充実した体験スペースもご用意しています。資料や説明書きを読むだけでなく、実際に手に取り体で体験してもらうことが大切だと感じています。博物館は自分から説明書きなどを読み込まないと理解ができない、というイメージを持たれているかも知れませんが、当館では実体験を通して学んでいただきたいと思っています。
現代ではそういった施設も少なくなっていると思うので、とても貴重な博物館ですね!
史跡に指定されている遺跡に隣接する形で博物館があるので、遺跡も博物館も両方楽しめるという点も魅力だと思います。
このエリアに一歩足を踏み入れればタイムスリップしたような感覚になれるんですね!
まさにそのとおりです!本当に当時の風景を見ることができるので、現代を忘れられるような感覚になると思います。
頭と体、両方で学ぶ当時の暮らし
では、登呂博物館の歴史についてお聞きできますでしょうか。
昭和30年に静岡考古館という名前で登呂博物館の前身となる施設が開館しています。その後、昭和47年に静岡市立登呂博物館という名前で開館し、平成22年にリニューアルオープンしました。静岡市立登呂博物館として開館してから半世紀以上の歴史があります。
一度リニューアルされているんですね!リニューアル時にはどういった点を新しくされたのでしょうか。
参加型の体験ができる部分を増設しました。また、昭和に発掘したものを改めて検証する意味で平成の再発掘も行われました。再発掘の成果を基に外の遺跡部分も再整備を行い、それに合わせて博物館もリニューアルしました。
様々な部分を一新されたんですね!
登呂遺跡は日本で初めて弥生時代の水田が見つかった遺跡なのですが、発掘技術が進歩する中で、当時の情報とは齟齬が出てきている部分を再検証しようという動きも再整備にきっかけになりました。遺跡だけでなく、発掘調査そのものに価値があるというのも特徴かもしれません。
リアルを通して学ぶからこそ深く知れる
では、建物の建築や周辺景観の特徴をお聞きしていきたいと思います。まず、建物の特徴的な部分はどういった点でしょうか。
まずは、2階のガラス張りの部分です。2階の展示室に入る前にガラス張りの部分から外の遺跡の様子を眺めてから展示室に入っていただけます。たとえば、小学校の社会科見学で児童たちに来てもらった際には遺跡の中を歩いてもらったりするのですが、それだけではなかなか全体像を掴むことは難しい。ですが、2階の高さから俯瞰して見ていただくことで、遺跡全体を見ることができ「こうなっているんだ」というのがよく分かると思います。
博物館ではリアルな物を目にする、というのはなかなか難しい部分もありますから、こういった様々な体験ができる施設というのは良いですね!
ありがとうございます!1階の体験展示室では、外でも復元されている倉庫や住居を80%の大きさに小さくした形で復元しており、天候が悪く室内の展示しか見られない場合でも建物の様子を体験することができます。特に多くの皆様に楽しんでいただけるのは、一日の様子を体験できる部分です。
一日の様子、というと具体的にはどういったものでしょうか。
体験展示室の演出の中で太陽が昇る・沈む演出を行っています。一日を通して当時の様子を疑似体験することができ、壁にも登呂遺跡の四季の風景などが描かれていて、雰囲気を味わっていただけます。博物館というと、少し堅いイメージを抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、知ってほしいことをできる限り忠実に再現してお伝えしたいと思っています。
ホームページを拝見すると、土器パズルや田下駄(たげた)の体験など、子どもから大人まで楽しめそうなイベントが盛りだくさんですね!
そうですね、土器パズルは粘土の紐をイメージした輪っか状のピースを積み上げて形を整えていくというもので、土器の形だけでなく、粘土紐を積み上げてつくるという工程も体験できます。田下駄体験は、当時実際に使われていた「田下駄」を履いてみようという体験です。田下駄を履いて立つ場所がふかふかのマットになっていて、そこに普通に立つと足が沈んでしまうのですが、田下駄を履くことで面積が広くなり沈まなくなる、という先人の知恵を再現したものです。
※ホームページ「登呂博物館」>「弥生体験展示室」ページ参照
なるほど!人間は本当に道具を駆使して発展してきた生き物だということがよく分かりますね。
本当にそうですね!文章の説明書きを読むだけではなく、こうして体験することで2階の展示室に上がった際に「これさっきあったね!」というような理解に繋がっていくのです。こういった体験は仰っていただいたとおり、お子さんだけでなく大人の方も楽しんで体験される方が多いんですよ。体験コーナーでは体験指導員という博物館の職員やボランティアの方も補助員として活躍してくれているので、皆さん「やっていいのかなぁ」という感じではなく、積極的に体験されています。
本当にコンテンツに富んだ博物館なのですね!ホームページでは音声ガイドも行っていると拝見しました。
はい、外国の方向けに多言語での音声案内も行っています。来館者数の割合としてはやはり日本人の方が多いですが、海外からの方も静岡観光のひとつとして利用頂けることが多いようです。日本らしさや歴史を感じられる部分が魅力、というのはもちろんそうですが当館のように一つの遺跡・時代に特化した博物館はあまりないので、そこも興味を持っていただける部分かと思います。
外に再現されている水田は、実際に田んぼとして利用することはできるんでしょうか。
可能です!博物館で活用している稲穂や藁は、復元された水田で収穫されたものです。時期によっては、田植え体験や稲刈り体験も開催しています。他にも、民間の団体や家族単位での貸し出しや、大学の研究の場としても利用されています。そういったリアルな自然も利用しながら博物館内での疑似体験だけでなく、本物の体験を通して学べるのが当館の魅力です。
広大な敷地をお持ちですが、周辺は街中、という認識でよろしいでしょうか。
そうですね、比較的街中です。静岡駅からもバスで10分ほどとアクセスも良いです。最近では東名高速の新しいICも近くにできたので東京方面から車で来られる方も多く、車・公共交通機関のどちらでも来館しやすいと思います。また、周辺には「ふじのくに地球環境史ミュージアム」という自然系のミュージアムや、先ほどお話した研究の場として利用されている静岡大学も近くにあるなど、学びのエリアと言えるかもしれません。静岡市内の常葉(とこは)大学の先生と一緒に藁や竹など自然由来の物でトンネルや小さな竪穴住居を作るなど、そういった形でもご協力頂いています。当館から発信するものもあれば、先方から「こういったことをやりたい」とリクエストを頂くこともあります。
それだけ、重要な博物館・施設として認識されているということですね!
そう思っていただけると嬉しいです。まだまだ至らない点もありますが、歴史の教科書や資料集などには掲載されていることも多く、訪れたことはなくても名前は聞いたことがあるという方も多くありがたいと思います。
地域と一体で継承していく文化
地元の方にとって、この博物館はどういった存在だと思われますか。
広く認知していただいていると思いますし、身近な施設として親しまれていると思います。たとえば、外の遺跡として整備している公園の部分は柵で仕切られているゾーンなどがなく24時間オープンしています。住居だけは鍵を閉めるなど防犯上の対策は行っていますが、公園自体は自由に入っていただけます。なので、朝・晩などの涼しい時間帯には散歩されている方もいらっしゃいますし、近くの幼稚園の園児たちがピクニックに訪れることもあります。
本当に散歩コースにピッタリですね!先ほど、ボランティアの方もいらっしゃるとお聞きしましたが、地元の方でしょうか。
そうですね、ご近所にお住いの方が多いです。現在50名ほどの方がボランティアとして活躍されていて、自転車や徒歩で来られている方が多いです。博物館と遺跡のガイドや体験の補助だけでなく、館内でのイベント補助などの他、自主的に草刈りをしてくださることもあります。広い遺跡なので手が回らない部分をサポートしていただき、職員だけでなく地域の方と一緒に運営しているという感じです。
まさに地域と一体となって運営されている施設ですね!地域の方が来館されるだけでなく、実際に運営に携わっているというのは珍しいと思いますが、温かさもあり良いですね。
本当に感謝しています。また、学びの部分では地域の小学校は6割ほどの学校が社会科見学で訪れています。県内の他の市町や時には県外から来ていただける学校もありますよ。
やはり注目されている施設ですね!
体験が多い施設なので、説明書きをたくさん読むのはまだ難しい小学校低学年の子どもたちでも雰囲気などを楽しんでいるようです。そういった意味でも体験型のイベントは今後も取り入れていきたいです。
全国に広がる発掘調査関係者
では、登呂遺跡発掘にまつわる逸話などのエピソードは何かありますか。
エピソードと言えるか分かりませんが、最近嬉しいことがありました。館内の図書コーナーで登呂遺跡の歴史をまとめた資料を読まれていたお客様が、「ここに私の父が写っています!」と教えていただいたことがありました。他にも、当時発掘調査の中でアイスキャンディーを販売していた方のご家族にお会いしたこともありますよ。
アイスキャンディーですか?
ええ、発掘調査を行っていた当時は戦後すぐで国にお金がない時代でした。そういった中でもアイスキャンディーを食べながら作業をしていたんだよ、という事実を伝えていくためにアイスキャンディーの領収書が残されており館内で展示しています。それをご覧になった方が「私の父は登呂遺跡の発掘調査でアイスキャンディーを販売していたそうです」と仰っていて、どちらも静岡県の方ではなかったんですが、他の地域からも発掘に携わって下さった方がいたんだな、と感慨深いものがありました。
素敵なお話です。近隣の方や学者の方だけでなく、様々な地域から調査に加わる方がいらっしゃったのかもしれませんね。
また、それは当時の日本で初めて考古学だけでなく建築学、植物学、動物学、地学など総合的に様々な分野の方が集まって発掘調査を進めてきたことの証明でもあり、全国規模で注目されていた調査だと分かるものです。今でも何らかの関わりがある方が全国にいて、来館いただいた際にそういったエピソードを話していただけるのは面白いなと思います。嬉しい一方で、それだけ重要で歴史のある遺跡を継承しているのだと責任も感じます。
施設でのイベント
登呂博物館では毎年期間ごとに展示を行っています。2024年9月28日~12月15日まで行われている秋季企画展「登呂遺跡を未来へつなぐ」は、登呂遺跡で見つかった多くの木製品を腐敗しないよう合成樹脂に漬け込むなどの保存処理を施し、大切に未来へつなぐ、などの内容です。これまで何年もかけて行ってきた事業のお披露目のような催しで、重要文化財が160点ほど並ぶ博物館内でも特にたくさんの資料を見られる企画展です。
また2025年1月25日~特別展を開催予定です。大分県国東市(くにさきし)の「安国寺(あんこくじ)集落遺跡」について展示予定ですが、この安国寺集落遺跡は「西の登呂」とも呼ばれていました。大分など九州の資料を静岡県で見られる展示はかなり珍しく非常に貴重な展示会となる予定です。安国寺集落遺跡は、戦後すぐに登呂遺跡の発掘が盛り上がった同じ時期に発掘された遺跡で、そういった遺跡を目にできる催しは珍しく、規模も大きなイベントとなる予定です。
大きなイベントだけでなく、気軽に参加できるイベントも随時開催しており、申し込みが必要なものや来館その日に参加できるものもあります。時には石器作り体験で石包丁を作り、自分で作ったもので実際に稲を収穫してみるなどのイベントもあり、開催時には列をなすほどの人気でした。
今後の展望
今後、海外との連携も視野に入れている登呂博物館。2024年3月には韓国の「松菊里遺跡(しょうきくりいせき)」を管理されている方々が来日し、お互いの遺跡とその整備についてのシンポジウムも開催されました。これは、2023年に登呂遺跡発掘から80周年を迎え、その記念事業として開催されたものでこの縁を大切にこれからも海外へのアプローチを続けていきたいと考えています。もちろん国内に現存する他の弥生遺跡を展示する博物館との交流は今後も継続し、それだけに留まらず海外への発信にも取り組んでいきたいと考えています。
また、観光スポットとしての認知は高まってきていますが、現段階では登呂博物館について掲載している教科書とそうでない教科書があるため、教科書に載っていなくてもどこかで知ってもらえるように周知を進めていきたいと考えています。そのためにSNSも開始し、様々な年代の方に届くように発信しています。登呂博物館が弥生時代の発信拠点となる施設にしていきたいと考えています。
インタビューまとめ
静岡県に留まらず全国から観光客が訪れる登呂博物館。展示されている登呂遺跡出土品は、戦後すぐに国を挙げての発掘事業で発見されたものです。国中が注目している中で発掘されたこれらの遺跡は、現在もその価値を衰えさせることなく当時の様子を今に伝えています。
今後はその様子を、国内のみならず諸外国へも伝えていきたいと考える登呂博物館。その志がこの先、博物館ひいては登呂遺跡を「誰もが知る弥生時代の遺跡」として多くの人に伝えていくでしょう。あなたも静岡県に寄った際には、2000年の時を超えて受け継がれる弥生時代の人々の声に、会いに行ってみるのもいいのではないでしょうか。タイムスリップの先で、当時の人々と話せるかもしれませんよ。
静岡市立登呂博物館 アクセス
URL:https://www.shizuoka-toromuseum.jp/
【問い合わせ】
静岡市立登呂博物館
住所:〒422-8033 静岡市駿河区登呂五丁目10番5号
TEL:054-285-0476
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