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三溪園 横浜に愛される、後世に受け継ぐ美しき名勝。

桜と三溪園の写真

横浜と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。中華街、みなとみらい、横浜ランドマークタワー…etc.古くから港町として栄えたこの町は、現代でも首都圏の重要な場所として全国的に有名な町です。ですが、そういった現代に誕生した名所だけでなく、近代から継承されてきた歴史的な施設も数多く残される地です。

その中の一つに、国の名勝にも指定されている美しい庭園があります。実業家・原三溪によって造られた庭園・三溪園。四季折々の美しい植栽はもちろん、その独特な地形を活かした建造物や植栽の配置は芸術的であるとも評価され、文化財として国指定名勝となっています。名勝に指定されている施設は神奈川県内でも限られており、保護されるべき重要な文化財として地域の方のみならず多くの観光客にも愛されています。

今回は、そんな三溪園の歴史や建築経緯、そして現代の庭園の楽しみ方に至るまでを、ご担当者様に詳しくお聞きしました。

目次

三溪園とは

菖蒲の花の写真

明治39年、実業家であった原三溪は自身で構想した三溪園を無料で一般公開しました。その園内には、桜や蓮、梅などの鮮やかな植栽に加えて京都や鎌倉、大阪から移築した数々の歴史的建造物が立ち並び、非常に壮観な景色を見せてくれます。外苑・内苑には合わせて17棟もの建造物があり、その中には徳川家康や豊臣秀吉など著名な偉人と関係が深い建物もあります。起伏の多い地形ならではの庭園設計には他の庭園では見られない特徴があり、その設計を活かしたライトアップイベントなども行われ見どころが非常に多い庭園です。

来園者に少しでも庭園の良さを知ってほしい、庭園の見どころを伝えたい、その思いを胸に紙媒体での広報に加えSNSでの発信など若年層へ向けてのPR活動も活発に行っています。その結果、散歩のついでに寄られる地域の方、体験イベントに参加してくれる小学生、遠方から来てくださる方など年間を通じて多くの方が訪れる庭園となっています。全ての来園者に「三溪園に来て良かった」と思っていただける工夫を凝らし、愛される庭園を目指しています。

【三溪園 特別インタビュー】

四季折々の美しい表情を見せる三溪園。横浜の煌びやかな街中から一歩庭園内に足を踏み入れれば、街中とはまた違った華やかさと穏やかな時間を体験することができます。

この庭園で楽しむべきポイント、ここでしか体験できないオリジナルのイベントについて詳しくご紹介します。

オールシーズン魅了される美しさ。地域住民との交流イベントも。

雪化粧の三溪園の写真
編集部

こちらは横浜市中区にある庭園ですね。非常に敷地が広い印象ですが、広さはどれくらいでしょうか。

庭園職員

敷地は約17万5000㎡、東京ドーム約4個分の広さです。

編集部

かなり広い庭園ですね!見どころがたくさんありそうですが、まずはこちらの造園の経緯をお聞きできますか。

庭園職員

元々は実業家であった、原三溪(はらさんけい)の義理の祖父にあたる原善三郎(はらぜんざぶろう)が自身のために別荘を建てたことが始まりです。その善三郎の没後、事業を引き継いだのが婿養子として原家に入った三溪でした。引き継いだ土地に自分の家を建てられたり、各地から建造物を移築してきたりと少しずつ庭園としての形を整えて、明治39年に一般公開しました。

編集部

なるほど。現在、庭園内には17棟の古建築物があるということですが、具体的にどういった建物が残っているのでしょうか。

庭園職員

まず、園内のランドマークとも言える三重塔があります。こちらは京都から移築したもので、園内のどこからでも見えるシンボル的な存在です。また17棟のうち10棟は重要文化財に指定されています。他には、臨春閣(りんしゅんかく)という建物です。三溪のプライベートゾーンでもある内苑と呼ばれる場所にある建物ですが、江戸時代に建てられた建物で、大阪から移築したものです。数寄屋風書院造の建物で、3棟が連なって建てられています。この建物は「東の桂離宮」とも称され、重要文化財にも指定されている建物です。

編集部

来園者の皆さんはどういった楽しまれ方をされているのでしょうか。

庭園職員

地域の方は散歩がてら寄られる方も多いですし、庭園として楽しめて且つ重要文化財に指定されている建物も見られるという施設は他にはなかなかないので、古建築を楽しむような気持ちで来られる観光客の方も多くいらっしゃいます。歴史的な背景ももちろんですが、単純に庭園という空間をゆったり楽しまれていく方もいます。最近ではインバウンドの方も多いですが、そういった方々はかつての侍が使っていた建物を楽しめるなど、そういった点に興味を持たれる方も多いようです。

編集部

海外の方は侍がお好きですよね。園内には植栽もかなり多いようですが、どういった種類の植物を楽しめるのでしょうか。

庭園職員

まず春は桜で、夏には蓮、秋は紅葉が美しく、2月頃になると梅の花が咲き始めますのでどのシーズンにお越しいただいても美しい景色を楽しめる場所です。

編集部

どのシーズンも美しいというのは良いですよね。ご近所の方にとっては、ゆったりと季節の植栽を楽しめる場所が身近にある、というのは良いことだと思います。日常の息抜きのような気分で気軽に立ち寄ることもできるでしょうし、憩いの場所として親しまれているんでしょうね。三溪園という名前の由来は、原三溪のお名前からでしょうか。

庭園職員

そうなんですが、実は原三溪という名前は本名ではないんです。三溪は絵や書、詩作なども嗜んでいたのですが、そういった方は雅号(がごう)といって本名の他にペンネームのような別名を持っていました。本名は富太郎というのですが、雅号を付ける際にこの三溪園がある地名から採ったと言われています。三溪園がある場所は住所で言うと「本牧三之谷(ほんもくさんのたに)」という場所なんですが、かつて「一の谷、二の谷、三の谷」と呼ばれる谷があり、その3番目の谷あいに造られている庭園なので、自身が本拠とする場所が「三の谷」にあったことから「原三溪」と名乗るようになりました。そうした経緯があり、三溪が一般公開されたお庭ということで「三溪園」と名前が付けられました。

編集部

そういった背景があったんですね。造園にあたっては関西方面に庭師の方を派遣したようですが、どういった経緯から関西へ派遣されることになったのでしょうか。

庭園職員

三溪が懇意にしていた古美術商の方が法隆寺の門前にお店を構えられていた「今村甚吉(いまむらじんきち)」という方なのですが、庭師を派遣する際に、今村さんに手紙を書き「奈良や京都の古建築がある風景を庭師に見せてほしい」と頼んでいます。梅林なども奈良の有名な月ヶ瀬梅林を参考に整備したと聞いています。

編集部

なるほど!素人考えで恐縮ですが、庭園と聞くとやはり日本三名園とも言われる後楽園や兼六園を思い浮かべます。ですが、そういった庭園の造りを参考にしたというわけではないんでしょうか。

庭園職員

そうですね。この三溪園がある場所はアップダウンが多い地形で、奈良や京都の五重塔や山並みがある景観を参考にし、梅林の景色などにエッセンスを求めて庭造りに活かしたのだと思われます。園内のどこに何を配置すれば外から見た時に美しいか、または中から見ても映える景観になるか、そういったことを細かく考えて設計された庭園です。

編集部

そういうことでしたか。たしかに、地形によってできる事・できない事はありますよね。詳しい背景をお聞きしましたが、明治39年の公開当時は何と無料で公開されていたんですね!無料で、という庭園はお聞きしたことがないので驚きです!

庭園職員

そうなんです。これには三溪の思いが反映されていて、彼は「この美しい景色は確かに自分の土地だけれど、こうした風光明媚な場所は造物主の領域に属すものであり、自分だけで所有せずに皆で共有するべきだ」という思いがあったようです。そのため、公開当時は「遊覧御随意(ゆうらんごずいい)」という看板を掲げました。後世に名を残す立派な方は考えるスケールも違うな、と感じています。

編集部

地元の方も多く来られる、というお話でしたが地域の方との交流イベントなどはされていますか。

庭園職員

結論から言うと、今は昔ほどそういったイベントは多くないんです。子どもたちの遠足一つにしても今は様々な行先候補がありますから、三溪園が多く選ばれる、というわけではないのが実情です。しかし、蓮が咲く時期、早朝に開園し咲きたての蓮を見ていただくイベントを行っているのですが、その際に「はすあそび」という蓮の茎から糸を取る体験など、蓮の茎や葉を使った遊びを数種類用意し、お子様に楽しんでいただいています。そういった体験ができる場所は、現在他にはほとんどないので、参加したお子様の様子を見ているととても楽しんでいただけているようです。

編集部

それは面白そうですね!そもそも「蓮の花」がどんな花かを知らない子どもたちもいると思うので、それを知るだけでも勉強になりますし、その花を使った体験というのはとても貴重だと思います。ぜひ今後も多くの子どもたちに参加してほしいですね!

ボランティア総数220名。どこよりも地域に愛される庭園。

編集部

こちらはボランティア様の数が非常に多く220名いらっしゃるとお聞きしたのですが、一つの施設に携わるボランティアの数としては多いと思いますが、どういった経緯で集まられたのでしょうか。

庭園職員

そうですね、地元の方を中心にたくさんの方が協力してくださっています。この方達にもいくつか種類があり、園内のガイドをしてくれるガイドボランティア、庭園のお手入れをしてくれる庭園ボランティア、唯一内部を公開している合掌造のボランティアなど様々な種類の方がいるんです。皆さん三溪園が好きで集まってくれているのですが、その中でも人に三溪園のことを知ってほしいという方はガイドをしてくれていますし、庭園を綺麗に保っていきたいという方は庭園のお手入れにご協力いただいています。三溪園は年末を除き年間を通じて開いているのですが、ガイドボランティアは曜日ごとに班に分かれて活動いただいています。団体様の予約も多く受け付けており、とても需要はあるんです。

編集部

素晴らしいですね!ボランティアとの協力体制がとれているなんて感動します!220名という人数も圧倒的ですが、しっかりとご自身たちでチームワークが取れているというのも素敵ですね。他の施設ではなかなか聞かないお話かと思います。

庭園職員

そうかもしれません。地域の方に親しんでいただくことはとても嬉しいので、そういったボランティアを通じてもっと知っていただければと思っています。

編集部

とても地域に愛されている庭園なんですね。そういった精神も次世代の子どもたちに受け継がれていってほしいですね。

派手ではない美しさを、穏やかなライトアップで。

夜桜と三溪園の写真
編集部

では、庭園内でのイベントについてお聞きしたいのですが、特に注目すべきイベントにはどういったものがあるのでしょうか。

庭園職員

そうですね、最近ですと修理工事が終わった建造物もあり、そういった時は修理後の姿を見に来られる方は多いです。皆さん、修理後の綺麗になった姿を見ることが嬉しいのはもちろんなんですが、そこに至るまでの経緯や過程を知るとより喜ばれるんです。ですので、そういった過程についても記録に残し見ていただけるように工夫して展示しています。

編集部

なるほど、修理に至る経緯と修理の過程ですか…確かに完成した姿を見るだけよりも、その内容を知っていた方がより物語を想像できて楽しめますよね!他にもライトアップイベントもされているとお聞きしました。

庭園職員

実施しています。ですが、正直なところ急こう配な所も多く、園全体をライトアップするのはなかなか難しいんです。また、現代ではイルミネーションやライトアップというのは至る所でされていますよね。特に横浜ですとみなとみらいもありますし、夜景も見えます。三溪園で行っているのは煌びやかなイルミネーションではなくしっとりとした雰囲気のライトアップなのですが、一般の方にはイルミネーションとライトアップの違いと言われてもピンとこない方もいらっしゃると思います。そういった方々へどう魅力的にPRしていくかは考える必要があると思っています。三溪園としての良さ、この庭園らしさを出しながら皆さんに楽しんでもらえるように工夫していきたいです。三溪園は建物や植物があってこその場所なので、そういった自然や昔から受け継がれてきたものと現代のライトアップをどう掛け合わせるか、今後も色んな角度から考えていこうと思います。

編集部

街中の煌びやかなイルミネーションもいいですが、自然を眺めながらしっとりと心を落ち着かせられるようなライトアップを見るのも良いですよね。この庭園ならではのライトアップ、ぜひこれからも続けていただきたいです。

庭園にまつわるエピソード

三溪園は多くの著名人が訪れた場所でもあります。その中の一人に文豪として有名な芥川龍之介が訪れていたという記録があります。大正6年頃のことです。芥川は原三溪の長男・善一郎と親しく、当時園内にあった初音(はつね)茶屋で麦茶を無料でふるまわれたもてなしを受け、善一郎に宛ててその体験を手紙に記しています。そういった文豪をはじめ多くの著名人にも愛された庭園でもありました。

また、園内には高浜虚子の句碑もあり、現在でも俳句展や俳句大会を行っています。そういった文化継承の場としても親しまれる一面があり、徳川家康や豊臣秀吉など歴史上の人物に関する建物もあります。特に秀吉には思い入れが深かったようで秀吉によって建てられた建物や資料、秀吉と縁の深かった千利休ゆかりの灯篭などを集め、彼が活躍した時代の雰囲気を感じられる造りになっています。

今後の展望

現在、来園していただく方の多くはご年配の方ですが若い世代の方にも向けてSNSでの情報発信も行っています。そういったネットの世界を通じて三溪園を知ってもらいたい一方で、現在来ていただいているご年配の方に向けて従来の紙媒体でも継続して発信していきたいと考えています。

ネットも、紙媒体もどちらも大切にしながら、それぞれのユーザー層へ向けて発信するべき内容を発信し、庭園として大切なものを守りながら三溪園の魅力を伝えていきたいと考えています。

インタビューまとめ

多くの観光スポットに魅了される横浜市。それ故に、横浜の観光に三溪園を必ず選ぶ人が大多数とは言えないのが実情です。しかし、見過ごすにはもったいない魅力がこの庭園にはあります。今回お話をお聞きする中で、職員の方々が心からこの庭園をもっと広く知ってほしい、魅力を伝えたいと思われているのを感じました。

現在はボランティアとして庭園を支えてくれる方も多数在籍し、原三溪が残した美しい風景を地域一体となって守っています。それだけの数の方がボランティアという形でも関わりたい、守りたいと思える価値がある場所です。庭園での時間は未体験、という方は、三溪園をその初めての体験をする場所に選んでみるのもいいのではないでしょうか。

三溪園 アクセス

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この記事を書いた人

ラボ編集部のアバター ラボ編集部 編集者・取材ライター

歴史と文化遺産に情熱を注ぐ29歳の編集者、山本さくらです。子どもが1人いる母として、家族との時間を大切にしながらも、文化遺産ラボの立ち上げメンバーとして、編集やインタビューを担当しています。旅行が大好きで、訪れる先では必ずその地域の文化遺産を訪問し、歴史の奥深さを体感しています。
文化遺産ラボを通じて、歴史や文化遺産の魅力をもっと多くの方に届けたいと日々奮闘中。歴史好きの方も、まだ触れていない方も、ぜひ一緒にこの旅を楽しみましょう!

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