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帯廣神社 大自然と共に生きる、美しき神社

帯廣神社神門の写真

日本の北端、北海道。そこには本州の地域にはない見とれるほどの美しい自然があります。雄大な自然が良質な土壌を育て、そこで育った作物や海産物などは時に目を見張るほどの味わい。その自然と調和するように佇む帯廣神社には、北海道でしか見られない野鳥や草花などこの地ならではの風景が広がっています。

神社でありながらまるで森を散策するような清々しい空気に触れ、心を落ち着かせることができる空間です。今回は、そんな自然と調和しながら帯広の地に根付く神社の魅力について、帯廣神社 宮司 大野清徳様にお話を伺いました。

目次

帯廣神社とは

帯廣神社正面の写真

野鳥、お散歩、森の散策、これらは一つの神社にまつわるキーワードです。美しい自然を感じながら神様へお参りできる、それが帯廣神社の特徴です。春は桜に囲まれ、夏は緑が茂り、秋には美しい紅葉、そして冬の雪景色。どのシーズンに来てもそこには人の手が加えられていない、そのままの自然があります。

人工のものではないありのままの自然は、訪れる人々を圧倒し神社へお参りに来たつもりが、自然散策を楽しんで行くという方が多くいらっしゃいます。宮司様自らデザインされている花手水やご自身で撮影されている野鳥たちなど、写真で見るだけでも非常に魅力的なコンテンツがたくさんあります。

コロナ禍で落ち込んだ地域の方たちを励ましたい、夏の神社も美しいと知ってほしい、そんな人々への「想い」が地域の方に伝わり、神社の行事にも多くの方に参加いただいています。帯廣神社だからこそ見られる景色、その景色を今回は文字と写真でお伝えします。

【帯廣神社 特別インタビュー】

帯廣神社参道の写真

明治からの開拓により人々の暮らしが始まった北海道。多くの人々が北の地へ渡り、その広大な土地と有り余るほどの自然を享受しながら今日まで歴史を紡いできました。

本州にはない独特の文化や美しい自然が息づく地で、一人でも多くの方に来てもらえるようにと、日夜尽力している帯廣神社。神職としての神明奉仕から、SNSでの発信まで幅広く展開されるその活動内容をたっぷりとお届けします。

美しい花手水と、雪の妖精に出会う

編集部

まずは、この神社の特徴についてお伺いできますか。

宮司 大野様

北海道という地は、明治に開拓が行われた百数十年という歴史の土地です。九州や関西などの西日本と比べると土地の歴史自体は長いものではありません。函館や小樽などは、江戸時代から幕府のお使いの方がいた五稜郭などがありますが、札幌や旭川、帯広、苫小牧、釧路などの地域は150年ほどの歴史の土地です。そのため、文化遺産と呼べるような史跡などはあまりありませんし、当社も114年ほどの歴史です。ですが、北海道には他の地域にはない広大な大自然があります。どこよりも広く、そして豊かな自然、これはこの地が誇るべきものだと思っています。

編集部

本当にそうですね。北海道と言えばその広さとそこに広がる大自然をまず思い浮かべます。その自然を活用しないのはもったいないですね!

宮司 大野様

中でも、当社が特に力を入れているのが「花手水(はなちょうず)」です。多くの神社の境内には手を柄杓で清める「手水(ちょうず)」と呼ばれるものがありますよね。そこに様々なお花を浮かべてデザイン的に魅せる「花手水」というものを自分たちで行っています。当社の花手水は、今年のじゃらんのアンケートランキングで全国6位なり北海道内では一番美しいとされている花手水です。

編集部

全国で6位とはすごいですね!お写真で見る限りでも本当に様々なデザインの物を作られていて美しいです。

宮司 大野様

この花手水を目当てに参拝される方も多く、現在では年間6回行っています。地域の方はもちろん、観光で来られた方皆様からも好評です。また、もう一つ話題になっているのがシマエナガです。

シマエナガの写真
編集部

シマエナガと言うと最近人気の「雪の妖精」と呼ばれている白くて小さな鳥ですね!

宮司 大野様

そうです。当社の境内でもそのシマエナガを観察することができ、9年ほど前から写真を撮って当社のインスタグラムにも随時投稿しているんです!

編集部

それは素敵です!私もシマエナガ好きです(笑)小さくて黒目が可愛くてコロンとしている様子が可愛いですよね。

宮司 大野様

ええ、そう言われる方が多いです。当社ではシマエナガの写真をアップすると共に神社内ではシマエナガ御籤(みくじ)、シマエナガの御朱印や御朱印帳、絵馬などもあります。シマエナガ御籤は7年ほど前から出しているんですがとても人気です。全て私がデザインしたものなのですが、参拝者さんには好評です!

編集部

ご自分でデザインされているんですか!?すごいですね!とてもアイデアマンでいらっしゃるんですね。

宮司 大野様

ありがとうございます。インバウンドの方々からも好評を頂いています。当社では花手水やシマエナガなど主に自然環境が豊かな点が特徴的であり、魅力だと思います。花手水を最初に始めたのは京都の楊谷寺(ようこくじ)というお寺なのですが、そちらでやられているのを見て当社でも始めたんです。

編集部

お花の飾り方などはご自身で考えられているのでしょうか。

宮司 大野様

はい。お花は近隣の生花店から仕入れており、妻と2人でデザインを考えながら飾っています。花手水をやられている神社や寺院さんは全国的にも増えていますから、他とは違うオリジナリティを出せるよう工夫を凝らしています。また、水を溜める部分を手水鉢と言うのですが、そこでは柄杓で水を汲み手を清めるのが一般的です。しかし、コロナ禍で使えなくなったため代わりにホースを配管して竹筒から水が流れる方法にしました。その竹筒を手水鉢に斜めにかけ、上半分を赤色ベースの花、下半分を白色ベースの花で埋めるなど、魅せ方にも工夫を凝らしています。

花手水4
編集部

これを一から考えられるとはすごいです!見る価値も撮る価値もありますね!

宮司 大野様

他とは違う工夫をしないといけないのでプレッシャーでもありますが(笑)見ていただいた方は皆さん喜ばれているので今後も続けていきたいと思っています!

編集部

お写真もご自身で撮影されているとのことですが、とても上手に撮影されていますね!シマエナガは撮影が難しいとメディアでも見ましたが…。

宮司 大野様

そうですね、狙うのはなかなか大変です。5~6回境内散策に出て1回見られるか見られないかくらいです。すばしっこいですからカメラに収めるのも大変です。野鳥の写真を撮り始めた頃から動画などを見て独学で撮影方法を学びました。参拝される方の中にはシマエナガを目当てに来られる方もいらっしゃいますし、撮影してアップした翌日や次の土日には大きなカメラを持って来られるカメラマンの方もいらっしゃいます。北海道内であれば当社でなくとも観察できる場所はたくさんあるのですが、見られるという情報を発信している所は少ないので、そういった意味では貴重な場所かと思います。神社で観察できるのは秋~3月くらいまでなので目撃したいという方はそのシーズンに来られるのが良いかと思います。

シマエナガの写真②
編集部

シマエナガの他にも観察できる野鳥はいるのでしょうか。

宮司 大野様

はい、たくさんいますよ!約10年間で80種類ほど観察しています。日本では現在約630種類の野鳥が見られるのですが、そのうち約100種類が一定の場所で観察できると観察数が多いとされていますので、結構見られる場所だと思います。

編集部

そんなにたくさん観察できるんですね!ちなみに、他の生き物も見られるのでしょうか。

宮司 大野様

他には北海道にしかいないエゾリス、エゾモモンガも見ることができます。ただ、エゾリスは日中でも見ることができますが、モモンガは夜行性なので写真に収めるのはなかなか難しいです。ですが、北海道は本州で言うと約100m~200mほどの山の上と同じような気候帯なんです。なので、たとえば六甲山に登った所にしかいないような野鳥もいます。そういった意味でも本州から来られた方はなかなか見られない動物を市街地で見ることができるので、そこも魅力なようです。

エゾリス

開拓の歴史と共に歩む神社

社殿
編集部

敷地がとても広大な印象を受けますが、広さはどれくらいなのでしょうか。

宮司 大野様

当社の隣にも別の小さな神社があるのですが、そちらを合わせると約1万坪ほどです。これは東京ドームの約3分の2の広さです。その空間の中に自然があり、一つの神社というよりも特殊な自然空間かと思います。

編集部

では、北海道という寒い土地ですが建築部分での特徴はいかがでしょうか。

宮司 大野様

当社の建物は鉄筋コンクリート造の物が多く、これは北海道の雪や寒さに耐えられるようにという意味でそうなっています。木造ですと寒さや雪の重みで傷んでしまうので、北海道など寒い地域の神社さんなどでは鉄筋コンクリート造の所は多いと思います。

編集部

なるほど!神社や寺院さんと言うと木造のイメージを思い浮かべますが、寒い地域ならではの特徴ですね。では、こちらの創建のきっかけは分かっているのでしょうか。

宮司 大野様

先ほど申し上げたように、北海道の歴史のほとんどは明治の開拓から始まったものです。ロシアが南下してくるという事態になった際に明治政府が北の警備を固めるために未開の地であった蝦夷地を開拓し住めるような状況に整備しようとしました。そして、警備をしながらそこで暮らしを営む屯田兵が入ることによって開拓が進みました。その際、札幌や旭川でも最初に神社が造られたんです。神社を造り、安全にその土地の開拓ができるよう神様に祈りながら開拓を進めていきました。ですが、帯広は政府ではなく民間企業が政府に許しを貰い開拓に入った土地だったため、神社を建てる・建てないはその方たちに委ねられ、結果的に神社は建てられませんでした。それまで、小さな祠という個人的な神社がありそれを帯廣神社と呼んでいたようですが、帯広市が発展してきたことに伴って地域の方々も「札幌や旭川にあるようなきちんとした神社を作るべきだ」ということになり、地域の方が話し合って明治43年、当時の札幌神社(現・北海道神宮)から神様を分けていただき創建に至りました。

編集部

帯広の土地発展の経緯と関係があったんですね!

宮司 大野様

はい、なので当社は北海道の神社の中でも比較的新しいんです。創建の際には、今で言うと町議会のような町民大会で神社の建設を決定したという記録が残っています。ただ、創建や歴史に関しては不明瞭な部分もあり戦時中や建て替えの際に資料を紛失している部分があるのかなと思います。

“お散歩”が魅せる、自然の偉大さ

野鳥の写真
編集部

ここまで、素晴らしい自然の様子と神社の歴史について聞いてきましたが、地元の方にとって帯廣神社はどういった神社でしょうか。

宮司 大野様

地元の方も多く参拝に来られています。ただ、やはり現在は若者の宗教離れという問題もあり、若い方が頻繁に来られるということは少ないです。その中で若い方にも足を運んでもらうにはどうすればいいか、という点が課題です。

編集部

来ていただくために具体的に何か考えられたのでしょうか。

宮司 大野様

コロナ禍の際に行動制限がかかりましたよね。ですが、厚労省が「お散歩へ行くのは三密には当たりません」と発表したことから、では神社へお散歩に来てもらうのはどうだろうと考え、お散歩がてら神社へお参り、お参りしながら森を散策という考えで「お散歩参り」というキャッチコピーを作り、SNSでの発信や動植物を撮影しYouTubeでの配信も行いました。そうすることで、少しでも家から出ることを躊躇っている方の癒しになればという思いでした。そして、映像で見たものを実際にお散歩しながら観測し、神社にお参りしませんかという提案を行いました。自然の中を散策するとマイナスイオンを感じたり、野鳥のさえずりなどを聞くことでストレスが軽減されるなどの効果があるという研究もあります。

編集部

そのお話は私も聞いたことがあります。確かに、自然の中に身を置くとリラックスできたり、深呼吸することで心も落ち着きますよね。

宮司 大野様

野鳥というのは天敵がいない所でしか綺麗なさえずりをしないんです。野鳥がさえずっている森というのは危険な動物がいないという証明でもあり、コロナ禍で気持ちが沈んでいる方に元気を取り戻していただきたいという思いで始めました。そうすることで、地元からの参拝者も増えコロナが始まった頃には花手水が2年目を迎えていたこともありそれを見に来られる方もいらっしゃいました。

宮司 大野様

北海道は春の桜、夏の暑さ、秋の紅葉、冬の凍てつくような寒さと本当に四季が明瞭な土地です。それだけに自然の厳しさやありがたさを感じることができるのも魅力です。神社散策でそれを実感していただき神社って良い所だなと感じていただければと思います。日本全体で人口減少も進んでいますので、ご高齢の方だけでなく若い方にも来ていただけるよう工夫をしていきたいです。リラックスできたり、深呼吸することで心も落ち着きますよね。

編集部

海外からの方は来られるのでしょうか。

宮司 大野様

そうですね、台湾や中国、韓国の方などアジア圏の方を中心に参拝いただいています。花手水なども日本独自のものなので、ご覧になると写真に撮られたりと感動されているようです。

“あのシンガー”との、意外な繋がり

編集部

では、神社にまつわる伝説やエピソードはありますか。

宮司 大野様

一つ、皆さんが必ず驚かれるお話しがありますよ。帯広の名士に中島武市(なかじま ぶいち)さんという方がいました。その方が当社に奉納された馬の銅像があるのですが、これは中島さんが20代の頃に禁酒・禁煙を10年達成した記念に寄贈されたもので、石碑の部分にも中島さんのお名前が記されています。神社へ参拝される方の中には、馬の銅像の前に本物の人参を置いて行かれる方などもいて皆さん見ていかれる銅像です。この武市さんは帯広に来られて一代で財を成され、商工会議所の会長や市議会の議長などを歴任され、市長選にも出馬されたことのある方なのですが、実はこの中島武市さんは、シンガーソングライターの中島みゆきさんのおじい様なんです!

編集部

あの中島みゆきさんですか!?それはすごいですね!

宮司 大野様

そうなんです!そういった話を銅像を見上げている方にお話しすると皆様おもむろにスマホを取り出して写真を撮られますよ(笑)中島みゆきさんは札幌ご出身の方ですが帯広にも数年間住んでいらっしゃったようで、縁があるようです。

編集部

それはすごいエピソードですね!日本人なら誰でも知っているシンガーですから、その方のおじい様と言われれば驚きますね。

宮司 大野様

本当にそうです。本当に立派な銅像なので、そういったエピソードなども今後ホームページをリニューアルする際には掲載したいと思っています。

神社での行事

明治に入り土地開拓が行われた北海道。そこに見られる雄大な自然は、国内でも随一です。春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の凍てつくような寒さと明瞭な四季を感じることができ、訪れる人々はその広大さと自然に圧倒され、非日常を体感することができます。帯廣神社では自然との調和を活かし参拝された方により魅力的に映るよう、様々な工夫を凝らし、地域にとって必要な神社であり続けています。

 神社に最も人が多く訪れる日、それはやはりお正月の三が日です。帯廣神社では三が日におおよそ5万人の人出があり非常に賑わう3日間です。しかし、夏場の参拝者は多いとは言えないものでした。そこで、帯廣神社では「夏詣」という夏の参拝行事を提案しました。1月1日は一年の節目の日として初詣に来られる方も多いですが、そこから半年経った7月1日にも「夏詣」として参拝に来ませんかという提案です。境内に風鈴を50個ほど飾り、風鈴の音色が響く自然の中を散策することでストレス軽減にも繋がり、さらに年6回行っている花手水が夏詣の期間に4回行われていることもあり夏詣とセットにすることで見どころの一つとなっています。神社で過ごす時間が心地よいものになれば「また来月もお参りに来たいね」と次の参拝に繋がり、その輪が広がればより参拝者が増えるきっかけになるため帯廣神社では最も力を入れている部分です。

今後の展望

雪景色の写真

帯廣神社が力を入れている、自然との調和を活かした神社散策「お散歩参り」。今後はさらに境内の整備や花手水の工夫、シマエナガなど野鳥の撮影ポイントなどを紹介していきたいと考えています。また、植樹なども行いながら散策が楽しくなるような仕掛けも増やしていければと計画しています。

そうすることで、地元の方であれば1日と15日の月2回お参りいただき、観光の方であれば地元へ帰った際に地元の神社や寺院にお参りに行く習慣を作るきっかけを作りたいと考えています。自然との調和を活用しつつ神社らしい、そして北海道らしい神社となるようこの先も尽力を続けていきます。

インタビューまとめ

神社や寺院と聞くと、どうしても古来の歴史や伝統、その創建の由来などに注目が集まりがちですが今回北海道という地の神社様にお話を聞き、初めて神社を包み込む自然環境にフォーカスすることができました。そこには他にはない、真似のできない美しくも厳しいありのままの自然がありました。宮司様のお話しからはその自然と上手に付き合い、活かし生かされている姿が想像でき「自然と共生する神社」を感じました。

今回は、活字と写真のみでのご紹介に留まりますが自然というものは現地へ行かなければその本当の素晴らしさは分からないものです。「シマエナガがいるなら見てみたい」「野鳥の観察をしてみたくて」「花手水ってどんなもの?」きっかけは何でも構わないと思います。神社様が発信されている情報をキャッチして現地で実際に目撃する。それはきっと、ただの神社への参拝では終わらず、癒されると共にワクワクするはず。春夏秋冬、どの季節の顔も美しい北海道。あなたは、どの北海道に会いに行きますか。

帯廣神社 アクセス

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この記事を書いた人

ラボ編集部のアバター ラボ編集部 編集者・取材ライター

歴史と文化遺産に情熱を注ぐ29歳の編集者、山本さくらです。子どもが1人いる母として、家族との時間を大切にしながらも、文化遺産ラボの立ち上げメンバーとして、編集やインタビューを担当しています。旅行が大好きで、訪れる先では必ずその地域の文化遺産を訪問し、歴史の奥深さを体感しています。
文化遺産ラボを通じて、歴史や文化遺産の魅力をもっと多くの方に届けたいと日々奮闘中。歴史好きの方も、まだ触れていない方も、ぜひ一緒にこの旅を楽しみましょう!

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