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白鬚神社

白鬚神社の外観

「顎にヒゲを蓄えた神様」をお祀りする「白鬚神社」。琵琶湖を一望する美しい景観に加え、その中にそびえ立つ大鳥居は多くの人々を魅了してきました。写真撮影に訪れる方はもちろん、参拝に訪れた方はその光景の美しさに心打たれる方も多いと言います。

現在、本殿・拝殿の屋根の檜皮葺きの葺き替え工事を行っており、2025年4月には新しい社殿を見ることができます。美しく生まれ変わろうとしているこの神社の魅力と、「白鬚」の由来について、神主様にお聞きしました。

目次

白鬚神社とは

湖中の大鳥居の写真

滋賀県と言えば、日本一の湖・琵琶湖を思い浮かべる方がほとんどだと思いますが、ここ白鬚神社はその琵琶湖を眼前に一望できる素晴らしいロケーションに鎮座する神社です。

湖に見える大鳥居のみならず神様をお祀りする本殿は重要文化財にも指定されている価値ある建造物です。地域のお子様の健やかな成長をお祈りする「なる子まいり」やその他の例祭などで地域の方との交流も多く、住民の方にも愛されている神社です。全国約300社のご分霊社の総本社として、約2000年の長い歴史があります。

全国の神社の中でも永いと言えるその歴史の中には、興味深い伝承も多く松尾芭蕉や紫式部などかつての偉人にも愛された高貴な神社でもあります。今なお、多くの方が訪れるこの神社の深い歴史を辿る貴重なお話をお届けします。

「道案内の神様」が見守る、近江の厳島神社

境内からの眺めの写真
編集部

白鬚神社というお名前は、地名に由来しているというわけでもなさそうですがどういった由来でついたお名前でしょうか。

神主様

これは『記紀(きき)神話(しんわ)』(古事記と日本書紀を合わせた神話)に登場する「天孫(てんそん)降臨(こうりん)」の神話に由来しています。天孫降臨とは天照大神の命を受け、天照大神の孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が、高天原(たかまがはら)(天照大神などの神々が住んでいたとされる場所)から日向国の高千穂峰に(あま)降った(くだ)ことを指します。その天孫降臨の際、地上で道案内をされたのが猿田彦命(サルタビコノミコト)という神様で、猿田彦命が日本全国を旅され、その道中この地に立ち寄られました。そして、その景色に感動され長期にわたり滞在されました。その期間は、琵琶湖の湖水が蘆原になるのを七度見た、六万歳もの間、比良に住んだ、というほどの長い年月でした。当初はいかめしい顔つきであった猿田彦命ですがその滞在期間中に髪の毛は白髪になり、顎には白い鬚をたくわえたお姿になられました。白い鬚の猿田彦命をお祀りしていることから「白鬚神社」という名前が付きました。

編集部

なるほど!地名ではなく神様由来のお名前なのですね。

神主様

はい、「ひげ」という文字は複数種類がありますが、当社の「鬚」の文字は「あごひげ」を意味する漢字なんです。間違われることも多いのですが、これを機に皆さまに覚えていただければと思っています。

編集部

そうなんですね!パソコンで打つ際にはよく気を付けないといけませんね(笑)

神主様

ええ、よろしくお願いします!

編集部

では、白鬚神社の特徴的な部分はどこでしょうか。

神主様

何といっても「湖中の大鳥居」です。神社の前に走る国道を渡った先にある湖の中に堂々と建つ大きな鳥居がとても有名で、参拝者はもちろんわざわざ鳥居の写真を撮りに来られる方も多くいらっしゃいます。特に朝日を背にした風景はとても美しく撮影される方も多いです。しかし近年、写真撮影をするために危険な国道横断が頻発したため、現在は国道を横断しての湖中大鳥居の撮影はお控えいただいております。走行ドライバーにも迷惑がかかるため、社務所前の展望台「藍湖白鬚台(おうみしらひげだい)」からの湖中大鳥居の撮影を推奨しております。

展望台の画像
編集部

そうですね。せっかくの写真撮影が台無しになってしまうようなことだけは避けてほしいですね。

神主様

そういった湖の中の鳥居ということで、よく「近江の厳島神社」とも言われています。

編集部

確かにそうですね!厳島神社を思わせる光景だと思います。ですが、なぜ湖の中にあるのでしょうか。

神主様

これには言い伝えがあります。古来、天変地異の前兆として湖の中に鳥居が現れたという伝承がありました。その伝承を聞いた大阪の薬問屋であった小西久兵衛(こにし きゅうべえ)という人物が昭和12年に初代の湖中大鳥居を建てました。その後、琵琶湖の総合開発の関係により琵琶湖の水位が下がるということで昭和56年に15mほど沖に移築したのが現在の大鳥居です。また、神社の本殿や拝殿もとても美しく立派なものですが現在本殿拝殿保存修理工事中となっており、ネットや素屋根がかかっているためその姿を見ていただくことはできません。この工事は2025年3月まで続く予定のため、来年4月以降であれば美しくなった本殿・拝殿をご覧いただけます。

編集部

そうなのですね。本殿はどういった建物でしょうか。

神主様

本殿は1603年(慶長8年)に豊臣秀吉の息子である秀頼が父の命により再建したものです。昭和13年には国の重要文化財に指定されています。白鬚神社本殿の屋根は側面にも屋根を流した入母屋(いりもや)と呼ばれる形式になっています。入母屋は仏堂などに使われる屋根形式で、神社本殿でありますが仏堂風の外観となっています。保存修理工事が終わりますと、美しく生まれ変わる予定なのでぜひ見に来ていただきたいです。

偉人にも親しまれた近江の地

紫式部の歌碑の写真
編集部

神社の歴史についてはいかがでしょうか。

神主様

白鬚神社のご分霊社は日本全国に約300社ほどありますが、その総本宮がこの滋賀県高島市の白鬚神社です。675年当時の書物にも白鬚神社に関する記述がありその頃には既に存在していた神社だと思われます。ですから、現在から2000年ほど前からの歴史がある神社です。神社境内地には、松尾芭蕉の句碑や紫式部の歌碑なども残されています。

編集部

それは貴重ですね!

神主様

紫式部の歌碑は「三尾の海に 網引く民のてまもなく 立ち居につけて 都恋しも」というもので、彼女が京都から初めて出て高島を通った際に、自分は故郷を離れて遠い所まで来たのだと都を懐かしんで詠んだ歌です。2024年の6月にはNHKの紫式部の足跡をたどるという「えぇトコ」光る君へSPの番組で当神社の歌碑も取り上げていただきました。そういった文化人からの信仰もあった神社なんです。

編集部

当時の偉人にも親しまれていた神社なのですね。

岩戸社
神主様

また、神社境内の奥には白鬚神社古墳群と呼ばれる4基の円墳があり、そのうちの1基は横穴式の石室が開口しており「天岩戸」と呼ばれ神聖なものであると考えられています。石室の手前には祠が設置され全体を「岩戸社」としてお祀りしています。参拝される方から「どなたをお祀りしているのですか」と聞かれることも多いのですが、記録に残る以前のことなので詳しいことは分からない、というのが正直なところです。

日本一の湖を眼前に讃える、貴重なロケーション

編集部

では、周辺景観についてお聞きしたいのですが、周囲がかなり開けている場所、という印象です。

神主様

そうですね、神社の後ろは山で前は湖という非常にシンプルな景観です。ですが、遮るものが何もないので湖中の大鳥居も見やすいですしとても風光明媚な場所です。緑も多く夏場でも早朝であれば涼しいのでご近所の方は散歩コースとして利用されている方もいらっしゃいます。長閑な場所ですので落ち着いて参拝していただけます。ただ、公共交通機関でのアクセスは少し難しい部分もありますので来られる際にはお車で来られる方が多いです。

編集部

本当に琵琶湖を一望できるような景観でとても美しいです。神社へ参拝することに価値があることはもちろんですが、この景観だけでも見に来る価値があるのではないでしょうか。

神主様

私もそう思います。本当に清々しい場所なのでぜひこの地に来てみてほしいです。

神様から“名前”を授かれる、珍しい神社

なるこまいりの画像
編集部

神社での特徴的な行事はどういったものがありますか。

神主様

白鬚神社では例年9月5日6日に白鬚祭り(秋季大祭)を斎行しています。このお祭りで有名なのが「なる子まいり」という特殊神事です。数え年二歳のお子さんに戸籍とは違う「名」(賜名・しめい)を授け、その名で三日間呼ぶことにより健やかな成育と延命長寿の御加護が頂けるという神事です。江戸時代の「諸国御祭礼番付」にも記載されていることから、江戸時代から続いている特殊神事であることがわかります。

編集部

長い歴史がある神事なのですね!ご出産された地元の方は多くいらっしゃいますか。

神主様

ええ、たくさんいらっしゃいます。生まれてすぐのお宮参りで来られる方も多く地元の方は皆さん「白鬚さん」と呼ばれることが多いです。ただ、コロナが流行した際に遠方の方はもちろんですが、地元の方も参拝を控えられる方が多かったので現在ではインターネットやファックスでの御祈祷の受付も行っています。遠方に住まれている方にも気軽に利用していただけるため、今後も続けていきたいと考えています。

今後の展望について

現在、日本全体で少子化が叫ばれ2024年上半期の出生数はわずか約32万人となっています。高度経済成長期の4分の1以下となり今後は日本全体で人口減少が顕著となってくるでしょう。

これまでは滋賀県高島市にある白鬚神社、地元に愛される神社、という認識を大切にすることが重要でしたが、今後は日本全国に目を向ける必要があると感じています。地元の方からの御信仰は大切ですが、それと同じだけ白鬚神社を全国の方に知ってほしい、そのために積極的にメディアにも関りをもっていきたいと考えています。一つ一つの取材などを大切にし、神社の良さを知ってほしいと思います。

また、神社は観光業ではなく神様をお祀りし御参拝をしていただく神聖な場所です。観光客の方目当てだけの取り組みではなく、神社らしい部分を残しながら白鬚神社という名前を広めていきたいと考えています。

インタビューまとめ

湖中の大鳥居をはじめ立派な建築物が並ぶ白鬚神社。神様由来の社名は地元の方からも白鬚さんの愛称で親しまれ日々穏やかな時間が流れる場所となっています。背後に山を讃え、眼前には日本一の琵琶湖を望む爽快な景観は一見の価値ある景観です。大鳥居の存在に劣らない立派な本殿・拝殿は現在保存修理工事が行われ、美しく生まれ変わる時を待っています。

少子化の一途を辿る国内の事情を鑑み、今後は地元のみならず全国へ白鬚の名を響かせたいと考えられている神主様の姿勢にこの神社の未来を見ることができました。もしも、あなたが悩まれていることがあるなら、「道案内の神様」として知られる猿田彦命をお祀りする白鬚神社で、人生の道標を探してみるのもいいかもしれませんね。

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この記事を書いた人

ラボ編集部のアバター ラボ編集部 編集者・取材ライター

歴史と文化遺産に情熱を注ぐ29歳の編集者、山本さくらです。子どもが1人いる母として、家族との時間を大切にしながらも、文化遺産ラボの立ち上げメンバーとして、編集やインタビューを担当しています。旅行が大好きで、訪れる先では必ずその地域の文化遺産を訪問し、歴史の奥深さを体感しています。
文化遺産ラボを通じて、歴史や文化遺産の魅力をもっと多くの方に届けたいと日々奮闘中。歴史好きの方も、まだ触れていない方も、ぜひ一緒にこの旅を楽しみましょう!

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